スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

唯「いんなーさーくる!」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 22:54:53.74 ID:XZeWNr6p0 [1/18]
最初にきっかけを作ったのは律のこの一言だった。

律「はぁ~……最近飽きてきたなぁ」

澪「また唐突だな。一応聞いてやるが、飽きてきた……って何にだよ?」

律「何って……私たちのやってる音楽に?」

澪「なっ!!」


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 22:57:07.57 ID:XZeWNr6p0 [2/18]
梓「り、律先輩の口からそんな言葉が出るなんて……」

紬「た、退部フラグ!?」

唯「早まっちゃだめだよ! りっちゃん!」

律の突然の言葉に一同が驚くのは無理もなかった。

しかし、律にとって最近のHTTの音楽性にマンネリがあるような気がするのもまた事実だった。

律「思うんだけどさぁ、『ふわふわ時間』も『カレーのちライス』も……私たちの曲はみんな爽やかな感じばっかりじゃないか?
  だからもっと違う感じのもやりたいと思ってさぁ」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 22:59:43.41 ID:XZeWNr6p0
澪「それはつまり……私の書いた歌詞に不満があるのか!?」

律「いや……(不満というか……恥ずかしい?)」

紬「それとも私の作曲に不満が……?」

律「そういうわけじゃないんだ」

律「ただ私たち、HTTでこれからも長く一緒にやっていくならたまには刺激になるような曲を演奏してマンネリを打破するのも必要かなーと」

梓「具体的にはどんな音楽がやりたいんですか?」

律「うーん……激しいパンクとかメタルとか?」

唯「パンクならよくするよ。うちの自転車!」

律「(無視)なぁ、澪にムギはどう思う?」

澪「パンクはともかく……さわ子先生がやってたみたいな怖いメタルは嫌だぞ!!」

紬「でもりっちゃんの言うことにも一理あるわね。たまにはちょっと違った曲を演奏するのもいいかも」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:01:39.70 ID:XZeWNr6p0
さわ子「そういう話なら任せて!!」

律「また、どっから沸いて出たんだこの人は」

さわ子「みんなの新しい音楽性に参考になるようなCD一杯持ってきたわ!」

澪「いや、別に音楽性を変えると決まったわけじゃ……」

さわ子「ほーら! こんなにどっさり!」

紬「これまた……たくさんありますね……」

梓「しかも全部ヘヴィメタルのCDですね」

唯「どれもジャケットに怖い絵が描いてあるね~」

澪「ヒ、ヒイッ!! だから私は嫌だって……」

律「相変わらず澪はビビりだなぁ」

さわ子「そうよ澪ちゃん、いつまでもそんなこと言ってていいの?」

澪「だって……」

さわ子「このまま新しい世界を知らずにいたら、貴方はきっと一生夢見がちの背筋凍りまくりメルヘンリリックしか書けないダメ作家志望みたいになっちゃうわよ?」

澪「そ、そんな言い方は……」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:05:24.49 ID:XZeWNr6p0
律「まぁまぁ、せっかくさわちゃんが珍しく顧問らしく私たちに協力してくれるっていうんだから、
  今日は皆でこの中から数枚持って帰って家で聴いてみようよ」

さわ子「珍しくとは失礼な」

梓「別にヘビメタをやれっていうんじゃなくて……
  この中からHTTの曲にいかせそうな要素を少しでも見つけられれば、ってことですよね?」

律「そうそう、梓は理解が早くて助かるなー」

紬「それなら私はこの『ドリーム・シアター』さんのCDを持っていくわ♪」

梓「じゃあ私は『アイアン・メイデン』にします。聴いたことなかったんですよね今まで」

律「私はやっぱりドラムが凄そうなのがいいなぁ……。この『ドラゴンフォース』っていうの聴いてみるか」

澪「わ、私は別にいいからな!」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:10:22.54 ID:XZeWNr6p0
唯「それなら私は……この『まいはむ』っていうのと『ぶるずむ』っていうのと『えむぺれ』っていうの、借りてみよーっと」

梓「唯先輩……多分それ、読み方間違ってますよ。『まいはむ』じゃなくてメイヘ……」

唯「いいんだよ、あずにゃん。そんなのどっちでも」

さわ子「うーん、唯ちゃんに英語のバンド名は難しかったかしらねー」

律「じゃあ明日までに最低一枚は聴いて各自感想を要素を報告ってことで」

澪「私は持って帰らない! 断固メタルなんか聴かないぞ!!」

そんなこんなで澪以外の4人は各自がさわ子から借りたメタルのCDを持って帰った。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:13:23.69 ID:XZeWNr6p0
そして、翌日――。

紬「ドリーム・シアター、キーボードの演奏が凄く素晴らしかったわ~。私もさすがにあんな演奏は無理ね~」

梓「アイアン・メイデン、ギター演奏の参考になりましたよ。ツイン・リードがいい感じでした!」

律「ドラゴンフォースみたいに速くツーバス叩けたら、カッコイイだろうな~」

澪「わ、私は絶対メタルなんて聴かないぞっ!!」

律「まだ言ってんのかよ澪は……。それにしても唯のやつ、遅いな~」

すると、部室のドアが空き、最後の一人が入ってきた。

その一人の姿を視界に入れた瞬間、澪の顔色が急変した。

澪「ギャーーーーーーーーーッ!!」

律「ど、どうした澪!! って、うわッ!!」

梓「ヒ、ヒイッ……!」

紬「あら、唯ちゃん」




12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:17:05.37 ID:XZeWNr6p0
唯「みんな~やっほ~」

入ってきたのは唯だったが、明らかに様子がおかしい。

なぜか唯は顔面を白く塗りたぐり、目元にはパンダのような真っ黒いアイラインを引いていた。


澪「…………」

律「(澪のやつ……気絶してら)どうしたんだ唯、その顔?」

唯「えー? なんか変?」

梓「変に決まってます!! なんですかそのメイク!!」

紬「パンダみたいになっているわよ?」

唯「うーんと、これはねー。昨日借りたCDの歌詞カードに載ってたバンドの人の写真を見よう見まねで」

律「はぁ?」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:20:54.59 ID:XZeWNr6p0
聞けば、何と唯は昨日さわ子に借りたCDに影響されてこのような珍妙なメイクを試してみたという。

律「ったく。影響されやすいやつだな」

梓「確かに形から入るのは上達の近道ではありますけどね」

紬「それにしても唯ちゃん、いったい何を聴いてそんなに影響されたの?」

唯「うーんとね、さわちゃん先生に借りたCD……ブラックメタルっていうジャンルのやつ」

梓「ブラックメタルですか……初めて聞くジャンル名ですね」

律「で、そのなんちゃらメタルとそのパンダメイクの、いったい何が関係あるんだよ」

唯「んっとね、これは『こーぷすぺいんと』って言って……あれ、なんだっけ?」

律「わかんないのかよ!」

紬「自分でもよくわからないまま、影響されちゃったのね」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:26:00.98 ID:XZeWNr6p0
唯「とにかくすっごくいいんだよ~? みんなも聴いてみてよ~」

律「聴くのはいいけど、そのメイクはないよな。動物園じゃあるまいし」

唯「これを聴けば、キリスト教なんていかに愚かでクソッタレな存在かよくわかるよ~」

律梓紬「は?」

唯「とりあえず今日はりっちゃんに貸すよ~」

律「あー、わかったわかった。今日持って帰って聴くから。そんなに押し付けるなって」

そんなこんなで唯に押しつけられたブラックメタルのCDを持って帰った律であった。
しかし、そんな唯の様子を訝しむ人間が二人。

梓「(でも唯先輩、キリスト教がなんとかって、どうしていきなりあんなことを……)」

紬「(この前までは仏教とキリスト教の区別もついていなかったのに……)」

梓紬「(不安……)」

梓と紬の不安は正しかった。

さわ子が唯に貸した3枚のCD、これがまったりとしたピースフルな場であった軽音部の、
奈落の底への崩壊へのきっかけとなったことを、この時の5人はまだ知らなかった。

澪「(っていうか私、気絶したまま放置かよ……)」


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:29:42.73 ID:XZeWNr6p0
軽音部の崩壊はいかにして始まったか?

後年、期せずして彼女たちHTTの運命を左右するきっかけを作ることとなった恩師、山中さわ子はこう語った。

さわ子「若い頃は誰だって影響は受けやすいもの。そしてやたらと世の中の権威へ反抗をしたくなる……。
     そう言う意味では私もそんな若者の一人で、メイクしておどおどろしい格好をして激しい音楽をやっていたわ。
     でも……彼女達はちょっと『本気』になりすぎたのかもしれないわね」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:33:18.14 ID:XZeWNr6p0
唯にCDを借りた翌日、あろうことか律までもが顔面を白く塗りたぐって音楽室に現れた。

顔全体を白く、目の周りだけを白く塗りたぐるコープスペイント――。
体温を失った死者の顔を摸したブラックメタル特有のメイクであった。

澪「ギョヘーーーーーッ!!」

梓「ああっ! また澪先輩が気絶した!」

紬「り、りっちゃんまで影響されてしまったのね……」

律「おい、唯。お前に借りたこのCD最高だったぜ!!」

唯「さすがりっちゃん隊員はよくわかってるね~」

律「今日から私たち、立派なアンチクライストだぜ!!」

唯「あんちくらいすと~」

そして、唯と律に押しつけられたCDによって、紬と梓もまた同様にブラックメタルに感化されるのには、さほどの時間はかからなかった。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:39:54.62 ID:XZeWNr6p0
後年、若かりし日を回想した田井中律と琴吹紬はこう語った。

律「とにかく何でもいいから刺激がほしかったんだ。
  勿論、毎日皆とお茶を飲んで楽しくやってる毎日に不満があったわけじゃないさ。
  ほんのちょっとの刺激で良かった。それが、唯のせいでまさかここまで影響されるだなんてなぁ」

紬「あの頃の私たちはあらかじめ決められたルールと敷かれたレールの上で生きていた。
  特に私は、生まれた家柄もあってそれが顕著だったの。
  だからこそ、あまりに社会の規範や常識から『逸脱した』あの音は私にとって魅力的だったのかもしれないわ」






24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:43:11.16 ID:XZeWNr6p0
そして、この頃から5人中4人がコープスペイントを施した放課後ティータイムの音楽性には明確な変化が生まれた。

梓「(ギャギャギャギャギャギャ……ッ!!)」

ギターはソロを弾くことを放棄し、ただひたすらに重くノイジーで陰鬱なリフを刻むことに終始した。

律「(ドドドドドドドドドドドドドドドド……)」

ドラムはツーバス連打に開眼して工事現場のような重低音を刻み、手数もそれに比例するように増え、まるでドラムマシーンの様相を呈した。

紬「(ボワーーーーーーーーーーン)」

キーボードは音数の多いメロディを奏でることを捨て、静謐かつ陰鬱かつ神秘的な、聴いているだけで自殺したくなるような旋律を奏で始めた。

唯「ボワアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」

ボーカルは金切声と絶叫に終始し、歌にならない歌をマイクにがなりまくっていた。

そして、そんな悪魔の音楽を演奏し始めたHTTで浮いている存在が一人。

澪「ヒ、ヒイッ! みんな……どうしたっていうんだよぅ……」

元来の怖がり屋であった澪は、ブラックメタルなどという恐ろしい音楽に到底適合できることなどなく、
楽器を持てば悪魔の叫びのような演奏を繰り広げ、
それ以外の時間でもひたすらに常軌を逸した行動に終始するメンバーについていくことなどできなかった。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:47:45.15 ID:XZeWNr6p0
ある日、澪が大事そうに小さな猫を抱いている後輩に声をかけてみれば、

澪「梓……またクラスメートの子に猫を預かったのか?」

梓「ええ。もっとも、もう死んじゃってるんですけどね」

澪「えっ……」

梓「あははっ。正確に言えば死んじゃってるんじゃなくて……私が殺したんです」

澪「ど、どうしてそんなことを……」

梓「澪先輩、私はね、『死』という概念に魅せられて仕方ないんです。だから常に自分の傍に『死』を置いておきたくて仕方がない」

澪「あ、梓……」

ネコミミの似合う少女だったはずの梓は、いつの間にかネコの死体収集家になっていた。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:49:39.59 ID:XZeWNr6p0
ある日、喉が渇いたと感じ、澪がいつもの『彼女』に声をかけると、

澪「ムギ、お茶を淹れてくれないか?」

紬「はい、どうぞ」

澪「ん、なんか今日の紅茶は随分と色が濃いな(ゴクゴク)」

紬「ええ、蝙蝠の生き血をたっぷり混ぜましたから♪」

澪「オゲェーーーーーーーーーッ!!」

紬はとにかく動物の生き血を飲むことに執心していた。

また、ある日、幼馴染にドラムセットを新調したから見に来てほしいと頼まれて行ってみれば、

澪「な、なんでバスドラムの中に豚の生首が入ってるんだよ……!!」

律「あぁーん? イカスだろー。朝、市場に行って安値で譲ってもらえたんだ」

澪「オゲェーーーーーーーーーッ!!」

律は音楽室に『オブジェ』の名目で常に豚の生首を飾るようになった。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:53:59.09 ID:XZeWNr6p0
唯に至っては、

唯「サタン……悪魔の復興……キリスト……殺す殺す殺す……白人至上主義……ナチスの復権……ユダヤ人には無条件の死を……」

もはや、会話すら通じなかった。

澪「ダメだ……。こんな部活に……私はいられない……」

思い余った澪は退部すら考えた。

しかし、元々人付き合いの上手くない自分が今この軽音部を飛び出したら、自分は本当にぼっちになってしまうのではないかとの思いが頭をよぎる。

澪「…………」

澪「ダメだ……軽音部にいれなくなったら……私の存在価値は……」

澪「所詮タダの音楽だ。ちょっとだけ聴いて、感想なんか言って話を合わせれば4人も喰いついてくれるはず……」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/17(土) 23:58:33.31 ID:XZeWNr6p0
そして、数日後――。

澪「りつー。教会放火しに行こうぜー」

コープスペイントを施した澪が灯油片手に音楽室へやってきた。

律「おおっ!! 澪もやっとわかってくれたか!!」

梓「さすが澪先輩です!」

紬「今日は蝙蝠の生き血ティーで乾杯ね♪」

唯「サタンの申し子が今日もここにまた一人……。だが我々の闘争はまだ終わらない……」

この澪の突然の心境の変化について、後年、彼女の幼馴染であった律はこう語った。

律「結局、あいつは唯に影響されたのさ。ブラックメタルの音楽性や悪魔主義に感銘を受けたわけじゃないよ。
  ああ見えて澪は実はものすごく自己顕示欲の強いヤツなんだ。つまり、『唯に負けてはいられない』って思ったんだろうね。
  唯と澪、あの二人のフロントマンが張り合い、互いを鼓舞し合うことが私たちの魅力のひとつではあったんだけどね」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:02:32.91 ID:PnyfY7lY0 [1/30]
こうして全員が悪魔主義者のブラックメタラーとなった軽音部。
その影響か、可愛い響きと内外で好評だった『放課後ティータイム』というバンド名も変更を余儀なくされた。

唯「『放課後インナーサークル』って名前はどうかな?」

律「インナーサークル?」

唯「うん。インナーサークルっていうのは、悪魔の旗のもとに思想を一にして、ブラックメタルを手段にして悪魔の教えを広めていく集団――つまり私たちのこと」

紬「いい名前だと思うわ~♪」

梓「バンドのロゴももっとグロテスクなものに変えましょう!」

唯「十字架を逆さまにしてその上でまったり悪魔がティータイムしてる感じのがいいね!」

澪「衣装も変えよう。さわ子先生に頼んで、棘とか山羊の頭とかをあしらったおどろおどろしいものにしてもらおう」

そして、過去に作った楽曲達もその装いを新たにする。

『ルシファー時間』
『カレーのち教会放火』
『私の恋は自殺願望』
『ふでペン肛門挿入』

エトセトラエトセトラ。

ともかく、こうして歴史に残るガールズ・ブラックメタル・バンド、放課後インナーサークルの活動が本格的にスタートであった。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:10:10.01 ID:PnyfY7lY0 [2/30]
この頃の様子を、戦々恐々としつつ見守っていた顧問教師はこう語る。

さわ子「この頃の彼女達は、音楽を演奏する合間にコープスペイントをしたり、
    動物の生首で遊んだり、生き血を啜ったりするだけのただのお遊びみたいなブラックメタル・バンド……。
    それこそ同じメタラーの先輩である自分にとってはまだまだ可愛いものでした。それが……」

『放課後インナーサークル』――この頃、5人の中で日常的に行われていたこと、それは『誰が最も邪悪か』を競い合うことであった。

梓「今日また子猫を殺してしまいました……」

律「甘いな。私なんか電車で目の前に老いたバーサンが立ってるのに席を譲らなかったぜ!」

紬「私は商業主義に走った楽器屋を脅迫して一件潰しました♪」

澪「わ、私なんかさっき学校のトイレを流さなかった! しかも大!」

唯「憂に黙って家計用のお金……こっそり盗んで来ちゃった!」


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:15:59.78 ID:PnyfY7lY0 [3/30]
全員「う~ん……」

律「悔しいけど、今回一番邪悪なのは唯だな」

梓「そうですね。憂はまさか最愛の姉がそんなことをするとは少しも思ってないはずですし」

紬「妹の愛情と信頼を裏切るなんて唯ちゃんは本当に悪魔主義者ね~」

澪「クソ~。次は詰まらせるくらいにぶっといのを流さないでやろうか」

唯「やったね!!」

この競い合いで勝つこと――それはインナーサークル内でのその人間の発言力、権威が増すことに繋がっていた。

こうして、悪魔主義者としての理想を果たさんと、5人は競って悪事を働き続けていた。

この頃、全ての発端であると同時に、先の『邪悪競争』で勝ちを得ることが最も多かった平沢唯は、妹の憂によくこんなことを言っていたという。

唯「私たちの音楽を突き動かす原動力はサタンなんだよ。
  私たちにとっては悪魔の再生こそが目標であり、
  最終的には『悪魔』という言葉を排除して世の中の全てを悪魔にすることが目標なんだ~」


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:26:21.10 ID:PnyfY7lY0 [4/30]
しかし、本業である音楽においても放課後インナーサークルは目覚ましい活躍を遂げている。

唯、澪、律、紬が高校3年生、梓が高校2年生の春に、自主制作によってリリースされた彼女たちの1stアルバム『放課後インナーサークル』は、
低予算でつくられたために劣悪な録音状態であったものの、それが更に5人のサウンドの悪魔性を増幅させ、今日ではブラックメタルの名盤と言われている。

また、この頃メンバーの五人はそれぞれが姓と名の間に独自のミドルネームを挿入し、ステージネームとして名乗るようになった。

放課後インナーサークル1stアルバム『放課後インナーサークル』
<演奏メンバー>
平沢“ユーロニモス”唯 :ギター、ボーカル
秋山“グリシュナック”澪 :ベース、ボーカル
田井中“ヘルハマー”律 :ドラムス
琴吹“イーサーン”紬  :キーボード
中野“Dead”梓     :ギター

<収録曲>
1.ルシファー時間
2.Cagayake Black Wizard!!
3.Don’t Say Crazy
4.私の恋は自殺願望
5.ふでペン肛門挿入
6.サタンに首ったけ
7.カレーのち教会放火
8.Go! Go! Satanic
9.悪魔崇拝がとまらない





36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:36:27.06 ID:PnyfY7lY0 [5/30]
このアルバムは、本来アンダーグラウンドであるブラックメタルの枠を飛び越え、
国内のインディーズチャートにおいてもランクインを記録するなど、異例のヒットとなったという。

そして、音楽活動の成功と共に、
それまでは猫殺し、万引き、脅迫、老人虐待、大便放置、財布漁り等のレベルで済んでいた5人の悪事の度合いはどんどんエスカレートしていくこととなった。

ある日、ひょんなことから校内でレズのクラスメートに迫られた律は、

律「同性愛なんて悪魔の教えに反するぜ!!」

と、憤慨し、そのクラスメートに対し殴る蹴るの暴行を加え、重傷に追い込んでしまったのだ。

紬「あのりっちゃんの事件をきっかけに、私たちがあのインナーサークルで日常的に行っていたことが世間に明るみに出たんです
(本心としてはボコられたのが私じゃなくってよかった……というところですけど)」

幸いなことに、レズビアンに突然貝合わせを迫られたという律の動揺具合が斟酌され、
また被害者が死ななかったこともあり、律は少年院に入れられることはなかった。

しかし、この暴行事件と同様の悪事が軽音部において日々行われていることが明らかになり、
律、唯、澪、紬は来春の卒業を待たず、そして梓は2年生で、桜ケ丘高校を退学となってしまったのだ。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:40:09.91 ID:PnyfY7lY0 [6/30]
律「当然、世間には叩かれたな。先公にも親にもクラスメートにも、私たちはまるで奇人のような扱いをされたよ」

紬「特に酷かったのは唯ちゃんね。あれだけ姉を慕っていた憂ちゃんまでにも泣かれて、本人も相当精神的に堪えたかと思ったんだけれど……」

その逆であった。

律の暴行事件という大掛かりな悪事に刺激された唯は、『より邪悪な人間が偉い』というインナーサークルのルールに則り、より大掛かりな悪事を企んだ。

唯「あはは~♪ 燃えろよ燃えろ~♪」

それは、今まで口には出しても誰一人として実行することなかった、
街にただひとつ建てられていた教会への放火だった。

当時行われたヘヴィメタル評論雑誌のインタビューにおいて、唯と澪はこんな発言を残している。

唯「アンチ・キリストであるっていうことは、ティータイムにムギちゃんの淹れた紅茶を飲むのと同じくらい当たり前のことなんだよ。
  信念でも思想でもなく、ただの当然の事実にしか過ぎないんだよ」

澪「私は唯のやった教会放火を当然100パーセント支持する。もっと、たびたび起こるべきことだと思う。
  キリスト教が世界に残した爪跡をこの世からすべて消し去らねばならないと思うよ」

当然に唯は逮捕、拘留されるも、数週間で証拠不十分により釈放された。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:46:45.91 ID:PnyfY7lY0 [7/30]
さわ子「誤解を恐れずに言うけど……教会に火をつけるだけなら百歩譲ってまだよかったの。
    当然、いくら悪魔にかぶれているからってしてはいけないことだけど。
    でも、あの子達に最悪の出来事が起こったのはそのすぐ後――」

律「最悪の出来事――つまりはとうとう犠牲者が出たってことさ」

紬「あの時のことは忘れようとしても忘れられないわ――」

5人が高校を退学になったその翌年。

来るべき2ndアルバムのレコーディングを控える中、
最年少のメンバーにして唯達の後輩であった中野“Dead”梓が、自室にてショットガンの銃口を己の側頭部にあてがい、引鉄を引いたのだ。

享年17歳――自殺であった。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 00:54:41.45 ID:PnyfY7lY0 [8/30]
当時の音楽雑誌でのインタビューで、メンバーは中野“Dead”梓の死をこう語っている。

唯「私たちにはもうリードギタリストがいない! あずにゃんが自殺したんだ、二週間前にね。ほんと悲惨だったよー。
  まず手首の動脈をナイフで全部刻んで、それからショットガンで頭をぶち抜いたんだよー。
  最初に見つけたのは私だったんだけど、ゲッってくらいに気味悪かった~。
  頭の上半分が部屋中に飛び散っていて、下半分はベッドの上まで脳味噌が流れ出していたんだから。
  もちろん私はすぐカメラを持ってきて写真を撮ったよ。次のHIC(放課後インナーサークル)のアルバムで使うつもりだよ。
  飛び散っていたあずにゃんの脳味噌はスープにして私たち4人で食べたよ。
  あと、私とりっちゃんは本当にラッキーで、あずにゃんの頭蓋骨の破片のでっかいのを二つ見つけて、それを形見のペンダントにしてるんだー」

澪「梓の死体の写真? ああ、見たよ。なにせ私が唯にフィルムを現像しに行かされたんだからな。
  不運なことに私はこの目で現場を見ることができなかったんだけど、
  あの写真を唯は上から見下ろすように撮ったから、飛び散った頭の中身がよく見えたよ。
  昔の私なら卒倒していたろうね」

律「梓の飛び散った脳みそを4人でスープにして食べたって?
  それは嘘だ。少なくとも食べたとしたらそれは唯だけだな」 


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:06:23.81 ID:PnyfY7lY0 [9/30]
自殺の理由については――

紬「梓ちゃんはある時期から、確実に精神を病んでいたのだと思う。
  だから梓ちゃんならこういうことをいつかやるだろうと思ってた。
  それにしたって唯ちゃんは特別ね。梓ちゃんの死を受けても、彼女はすこしもそれを残念と思っている素振りを見せなかった。
  寧ろそれをバンドの宣伝に使おうとしていたわ」

律「生前の梓に良く聞かれたよ。『律先輩、死ぬのってどんな感じなんですかね?』って。
  え、その答え? 生憎私にはまだやり残したこと――世界中に私たちの音楽を広めたいっていう野望があったからさ、考えたこともなかったね」

澪「梓は死という概念そのものに魅入られていたんだ。
  彼女はいつも小さな木箱を持ち歩いていてね。その中には猫の死体が入っていた。
  本人いわく自分と猫はどこか通ずるものがあったらしい。
  ギグの前にはよく楽屋でその木箱にネコミミをつけた自分の頭を突っ込んで、猫の死体の臭いを嗅いでいたよ。
  ああすることで『死』と一体化できるんだなんて言ってたな。だからこそ、梓にとって自殺というのはある意味必然の選択だったのさ」

憂「まだ梓ちゃんが退学処分になる前に本人から聞いたことがあります。
  『私は最近、スナッフムービーにハマってるんだ』って。
    あんな子じゃなかったのに……」

唯「あずにゃんは私があげた弾丸で自殺したんだ。
  『唯先輩、いつでも自殺できるように銃を買いました!』なんて言ってたから。
  でもまさか、本当にそれを使うとは思ってなかったよ」



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:20:40.26 ID:PnyfY7lY0 [10/30]
この中野“Dead”梓自殺事件は、音楽業界に大きな反響をもたらしたばかりではなく、オカルトチックな話題としてテレビ等のメディアで大きく取り上げられた。

さわ子「あの事件の影響で、ブラックメタル・シーンに目を向ける人間がますます増えたことが皮肉だと思うの。
    何せ新聞にもテレビにもでたくらいだから。
    ブラックメタルのブの字も全然知らなかった連中が、いきなり寄ってきたんだわ。クールだと思ったのかしら。
    あの5人は退学になってしまっているというのに、桜高にも彼女たちの後を追うように次々と顔を白塗りしてギターを持つ女子が増えてきた。
    皮肉だけど、確実に梓ちゃんの事件の影響ね――」

唯「あずにゃんが死んだのは、流行を追いかけるやつらのせいで、もともとのブラックメタル・シーンがすべて破壊されてしまったから。
  私たちは元々マンネリを打破したくて、世の中も誰もがやっていないような音楽がやりたくて、今のHIC(放課後インナーサークル)を始めたから。
  私はそういう、世の中の流行の中心になんて、なりたくないよ!」

澪「唯の言っていることはどうにも嘘臭いんだよな、自分が一番梓の死を利用したくせに」

律「こういう話があるの知ってるか? 梓は自殺じゃなくて他殺だったんじゃないかって……」

紬「梓ちゃんの死体写真を見ればわかるわ。
  あの写真で、梓ちゃんの死体が握っているライフルの上にナイフが乗っているの。
  動脈を切ってから頭を撃ち抜いたなら、ナイフがライフルの上に乗るはずはないのに。
  ええ、勿論真犯人を疑うとしたら、ひとりしかいないでしょうね」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:24:27.86 ID:PnyfY7lY0 [11/30]
傷害事件、教会放火、そして自殺――数々の事件を巻き起こした放課後インナーサークルは、もはや完全に社会の忌み嫌う悪の枢軸となっていた。

しかし、その一方で、先の山中さわ子の発言にもあるように、彼女たちの過激な悪魔崇拝活動に影響を受けるフォロワー達も多く現れ、
『放課後インナーサークル』はただのいちブラックメタル・バンドに留まらない、
有象無象の悪魔主義者や過激は思想の若者が集まるもっと大きな存在となっていた。

律「組織が大きくなること、それは必ずしも良いことばかりだとは限らない。
  インナーサークルの性質を思い返してみればわかるだろう。
  あそこじゃ、『より邪悪な人間』が権威を持つ仕組みになっていたんだ。
  これがどういうことかわかるか?」

紬「数多くインナーサークル内に集まった私たちの信者の中では、勢力がはっきりとふたつにわかれたの」







51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:26:37.35 ID:PnyfY7lY0 [12/30]
つまりそれは、
旧放課後ティータイムをブラックメタル路線に変更させた張本人であり、
教会放火などの先鋭的悪事を進んで働いていたシーンのリーダー的存在である平沢“ユーロニモス”唯派と――。

かつては最もブラックメタルに否定的だったものの、一度悪魔色に染まったが最後、
ここにきてライバルバンドのメンバーの自宅への放火やツアーバスの爆破テロなどで名を馳せ始めた秋山“グリシュナック”澪派の二つであった――。

律「かつては同じ部活で茶を啜り合い、同じバンドで志を同じくしたはずの2人が、あの時期から徐々に敵対するようになったんだ」

紬「澪ちゃんはよくこう言っていたわ。『最近の唯はブラックメタルとネオナチ思想を混同している』って。
  それからね。インナーサークル内の澪派の人間から唯ちゃんが脅迫を受けるようになったのは」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:29:47.33 ID:PnyfY7lY0 [13/30]
20××年8月9日。

この頃、平沢“ユーロニモス”唯は、たび重なる秋山“グリシュナック”澪派構成員の脅迫行為から逃れるため、ごく親しい人間のもとで匿われる生活を続けていた。

最近では、彼女のただ一人の妹である平沢憂のマンションで暮らす日々であった。

唯「せっかく大学に入って一人暮らしを始めたばかりだっていうのに、匿ってもらっちゃってごめんね、憂――」

憂「ううん、誰でもない、お姉ちゃんの頼みだもん。例え悪魔主義者になったとしても私は結局、お姉ちゃんを裏切れないわ――」


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:37:34.63 ID:PnyfY7lY0 [14/30]
唯「でも……そろそろ出ていかなくちゃいけないと思ってるんだ」

憂「なんで!? 私はお姉ちゃんさえよければこのままずっと一緒に暮らしたって……」

唯「それはダメ。
  ここもいつかは澪ちゃんの手下に気付かれる――。
  そうなったら憂にも危険が及ぶかもしれないし」

憂「お姉ちゃん……」

唯「心配しないで。私は天下のインナーサークルのナンバーワン、平沢“ユーロニモス”唯だよ?
  澪ちゃんみたいな間抜けに易々とやられるほど、落ちぶれちゃいないよ」

しかし、唯の中では既に憂のもとを離れる決意が固まっていた。

憂「それじゃ私は大学に行くね」

唯「うん。行ってらっしゃい」

憂「今日はアルバイトがあるからちょっと遅くなるけど、昼ごはんも夕飯も用意してあるから、チンして食べてね」

憂が出かけたのを確認すると、唯は幾日かぶりに携帯電話の電源を入れ、記憶を辿り、とある番号をコールした。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:45:09.88 ID:PnyfY7lY0 [15/30]
?『はい。どちらさまでしょう?』

唯「わたし。平沢唯だよ。久しぶり和ちゃん」

和『唯? 本当に久しぶりね! 一体どうしたの?』

唯「実は幼稚園の頃からの幼馴染の和ちゃんを見込んで、お願いがあるんだ……」

唯は自分をしばらく匿って欲しい旨を素直に和にお願いした。

和『唯……。貴方、もしかしてまた犯罪を犯したの? 教会を燃やしたり……』

警察沙汰を起こしまくる悪魔主義メタルミュージシャンとして、唯が一般社会にも流していた悪名は和にとっても当然知るところであった。

唯「違うんだ……。ちょっと言いにくいけど、和ちゃんには話すね――」

唯は澪との確執、そしてそれに伴い今自分が晒されている脅威について、あけすけに和に打ち明けた。


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:48:29.58 ID:PnyfY7lY0 [16/30]
和『皮肉なものね……。軽音部のメンバーは、昔はあんなに仲が良かったのに……』

唯「それは昔の話だよ。今じゃ澪ちゃんはただのわからずやの間抜けのビッチ。サタニストの名が泣くよ」

和『事情はわかったわ。ほかならぬ唯の頼みだもの』

唯「本当? 匿ってくれるんだね」

和『ええ。住所を教えてくれれば、私が車で迎えに行くわ。
  唯は世間に顔が知れているから、うかつに出歩かない方がいいと思うし』

唯「ありがとう和ちゃん! サタンの名に誓って、感謝するよ!」


和「さてと……予想通り、唯は私を信頼しきっているみたいだし、これでいいのよね?」

携帯電話を置いた和の傍らで、黒い長髪の影がニヤリと嗤った。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 01:55:39.06 ID:PnyfY7lY0 [17/30]
8月9日12:00――。

平沢憂が一人暮らしを営むマンションの一室に、インターホンのチャイムを鳴らす音が響いた。

唯「………和ちゃん?」

和「そうよ、唯。迎えに来たわ」

聞き覚えのあり過ぎる幼馴染の声に安堵を覚えた唯は、迷うことなく何重にも施錠されたドアのカギを外し、来客を迎えんとした。

唯「ようこそのどk――」

幼馴染を迎えたはずの唯の笑顔が歪む。

己の腹に刃渡り20センチはあるナイフが刺さっていることに気づけばそれも当然で――。

唯「がっ……はっ……?」

唯は眼前に信じられないものを見てしまった。




60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:01:38.22 ID:PnyfY7lY0 [18/30]
目の前に立っているのは、間違いなく秋山“グリシュナック”澪の姿――。

和「ごめんね、唯。実は私も秋山“グリシュナック”澪派の人間だったの」

幼稚園の頃からの幼馴染である真鍋和を利用すれば、警戒心の強い唯の扉のガードも少しは甘くなるだろう――澪の目論見はまんまと成功した。

唯「そ……んな……」

澪「唯、お前は前々から言ってたよな。『サタンは生贄を欲する』――って。
  この世からキリスト教みたいな腐った思想を廃絶し、全てを悪魔に塗り替えること、それには当然それ相応の代償が必要だ」

唯「く……ぁ……」

澪「次の生贄はお前だよ、唯――」

唯「――――ぁ」

そうして血の海に横たわる平沢“ユーロニモス”唯の物言わぬ身体に残ったのは、23か所に渡る多数の刺し傷だった。

致命傷となったのは頭部への一撃。

頭蓋骨に深々と突き刺さったナイフの刃は、かなりの力を入れて引っ張らないと抜けなかったものとすら思われる。

平沢“ユーロニモス”唯、20年の短い生涯であった。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:05:47.01 ID:PnyfY7lY0 [19/30]
律「夕方だったかな。家で何となくつけたら聞き覚えのある名前が聞こえてきたんだ。
  最初は『ああ、また唯のやつ、放火でもしたのかな』って思ったくらいだった。それが……」

紬「私はすぐに思ったわ。『なんてこと! これは澪ちゃんの仕業に間違いない』って。そのあとすぐりっちゃんに電話をしたわ」

律「ムギが澪のせいに間違いないって言うんだ。
  私は澪のことを昔からよく知っている。だからこそ言えるが、昔のアイツは人殺しなんかとてもできるタマじゃなかった。
  それでも私も『ムギの言うことは本当かも』と思ってしまった。それくらいに、当時の二人は憎み合っていたんだ」

実行犯、秋山“グリシュナック”澪は、計画的な殺人だったとはいえ、焦りもあってか現場に多数の指紋を残し、逃走――。
唯の死亡がセンセーショナルにメディアで報道されたその僅か2日後に逮捕された。

澪と共謀し、唯を裏切った真鍋和もそれからほどなくして逮捕――。

これが、秋山澪による平沢唯殺害事件の顛末であり、稀代のブラックメタル・バンド『放課後インナーサークル』の最初の歴史の終了でもあった。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:13:44.51 ID:PnyfY7lY0 [20/30]
憂「世間では『インナーサークル内での権力争いが事件の原因』って言われてるけど、お姉ちゃんの話では違った。
  お姉ちゃんと澪さんの間には、金銭的なトラブルもあったらしいの――」

律「唯はHIC(放課後インナーサークル)のメジャー契約を画策していてね。アンダーグラウンド主義の澪とは対立していたんだ」

紬「その頃までに私たちは2枚のアルバムを出していたんだけど、作詞作曲面で澪ちゃんは大きく貢献していた。
  でも、その印税が澪ちゃんに払われていなかったのも事実ね――。
  当時、バンドの金銭面の権力を一方的に握っていたのは唯ちゃんだったから」

律「『悪魔主義を完遂するために仲間をも手にかける、恐るべき秋山澪』なんて言われていたけど、
  本当の原因はもっと単純なこと、つまり澪は自分が唯より偉いってことを示したかっただけなのさ」

紬「事件の前夜、澪ちゃんと偶々電話をしたの。こう言ってたわ。
  『唯のヤツが私の殺害を計画しているらしい。殺られる前に殺ってやる』って」

インナーサークル内の派閥争い、金銭トラブル、個人的な憎悪、唯が先に手を出したが故の正当防衛――
様々な憶測が飛び交う中で、澪が唯を殺害した本当の動機は、今でもわかっていないという。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:20:12.64 ID:PnyfY7lY0 [21/30]
その後の話をしよう――。

田井中“ヘルハマー”律は、唯の死後、そして澪の収監後もバンドを継続。
新たなメンバーを加え、現在でもその超人的なドラミングで、
ピュアなブラックメタルを聴かせる最凶のバンドとして第2期放課後インナーサークルを引っ張り続けている。

琴吹“イーサーン”紬は、律とともに放課後インナーサークルを継続。
唯一無二の陰鬱サウンドを奏でるキーボードプレイヤーとして、
そして禍々しくも美しい数々の楽曲を生みだすソングライターとして活躍。
その後、自分独自の音楽性を追求するためにソロへ転向。
ソロプロジェクト『沢庵エンペラー』の首謀者として、カリスマ的人気を誇っている。


かのオリジナルメンバーによる『放課後インナーサークル』において、
5人のうちただ2人の生存者である(正確には澪は死んでいないが、社会的には死んだも同然であった)律と紬は、
悪魔に取りつかれひたすらに奔走した若き頃の自分を、各々こう総括している。

律「今でも私はキリスト教が大嫌いだし、人種差別主義者だ。
  でもあんな過激な行動からはもう卒業した――。
  私に限って言えば、あの頃起こったことは全て『悪魔』の名を借りて、
  ただ自分がどれだけタフで刺激的な人間かを周りに示すための大げさな演出だったように思えるよ」

紬「私は悪魔主義からは卒業したし、昔は毎日飲んでいた蝙蝠の生き血も、今では月に1度しか飲まないわ。
  ただ、私はあの頃のことを決して後悔はしていない。
  少なくとも私は、例えどんな形にせよ、若い頃に自分の意見をしっかりと持って行動できていたから。
  それだけは今でも誇りに思っているわ」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:24:40.26 ID:PnyfY7lY0 [22/30]
そして、居なくなってしまった人間達のことを思い出してみる。

中野“Dead”梓――。

バンドの全盛期と最悪の混乱を見ることなく自らの頭を撃ち抜いた彼女は、
その特異な存在と死に様故に、現在でもファンの間では神格視されるメンバーである。

彼女が唯一参加したインディーズ1stアルバムや当時隠密に録音された梓在籍時のライヴ音源、
また平沢“ユーロニモス”唯が撮影した、梓の脳漿と頭蓋骨の飛び散る血に塗れた写真をジャケットにした海賊盤等は、
その貴重さ故、中古市場では法外な高値で取引されているという。

現在でも『中野“Dead”梓在籍時以外は認めない』、『最も純粋に悪魔に殉じた中野“Dead”梓こそブラックメタルの象徴』と考える、
あまりにもピュアすぎるHICファンが、世界に多く存在する。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:27:30.79 ID:PnyfY7lY0 [23/30]
平沢“ユーロニモス”唯――。

放課後インナーサークルの光と影の歴史を一人で体現しきった彼女は、
死後数年経った今でもブラックメタル・ファンの間では永遠のアイコンである。

ただ、「中野梓の死を宣伝に利用した」、「金銭面に五月蠅く、ケチな人間だった」、
「晩年はナチズムに傾倒していた」、「キリスト教やバンドメンバーには冷酷だった一方、自分の妹に対してだけは悪魔になりきれていなかった」等――
バンドの中で最も敬虔な悪魔主義者だったはずの彼女の評価は今日になって揺らいでいるともいえる。

しかし、ただのお茶系まったりバンドだった放課後ティータイムを、
『放課後インナーサークル』というブラックメタル・バンドに仕立て上げたのは紛れもなく彼女の功績であり、
その事実だけは未来永劫、揺らぐことはないだろう。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/18(日) 02:30:14.39 ID:PnyfY7lY0 [24/30]
秋山“グリシュナック”澪――。

唯の殺害と数件の教会放火等数件の余罪で逮捕された彼女は、
裁判の末、懲役21年の刑を言い渡され、現在も監獄に身を置く日々である。

しかし、HICの中では最も音楽への情熱の高かったメンバーでもあった澪の創作意欲は檻の中でもとどまることを知らず、
刑務所に唯一持ち込みを許された楽器であるシンセサイザーで楽曲を制作。

アルバムまで発表し、囚人でありながらも今でも支持を拡大し続けている現役のミュージシャンである。

なお、彼女の口から、唯の殺害に対する反省や後悔の言葉は、今でも一切語られていない。

澪「私は自分のしたことを後悔してはいないよ。唯は殺すべき存在だった。
  そして、唯の脳髄にあのナイフを突き立ててやった瞬間、若い頃の弱虫で恥ずかしがり屋だった秋山澪は完全に消えたんだ。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:32:20.61 ID:PnyfY7lY0 [25/30]
狂ってしまったのか、はたまた運命だったのか――。

『放課後ティータイム』として女の子らしいロックを追求していた女子高生5人が、
一瞬にして悪魔に魅入られ、結果的にその身を堕落させてしまったのだ。

もしかすると、彼女たちの信じた悪魔というのは、空想の存在などでは決してないのかもしれない。

(終わり)


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:33:50.77 ID:PnyfY7lY0 [26/30]
唯「……という夢を見たんだ~」

律「ひ、酷過ぎる……。あまりにも酷過ぎるぞ唯!!」

紬「流石に言葉を失うわ……」

澪「律とムギはまだいいよ! 私なんて殺人犯でブタ箱入りだぞ!! 出所したら40過ぎのオバンじゃないか」

梓「私なんかすぐに殺されました……しかも唯先輩全然悲しんでくれないし……」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:37:24.07 ID:PnyfY7lY0 [27/30]
唯「まぁまぁみんな、夢の話なんだからいいじゃん!」

律「よくねえよ!!」

澪「そうだぞ! 私たちは悪魔崇拝だなんて、夢や創作話にしたって度が過ぎる!」

梓「ありえないですよね!」

紬「そうね、レズビアンをボコボコにするなんてありえないと思うわ!」

律澪梓「(そっちかよ……)」

唯「まぁ、そうだよね~。私たちはこうやって平和に、まったりお茶を飲んで過ごすのがお似合いだよ~」



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/18(日) 02:42:01.67 ID:PnyfY7lY0 [28/30]
さわ子「あら、全員そろってるわね!」

澪「相変わらず唐突ですね……」

律「そうだ! 聞いてくれよ~さわちゃん! 唯のやつがとんでもない夢を見てさぁ~……」

さわ子「そんなことよりも、貴方達が言ってたCD、持ってきたわよ!」

梓「え、CD……ですか?」

さわ子「そうよ。『新曲の参考にするからメタルのCDを貸してほしい』って言ったの、貴方たちの方じゃない?」

紬「え、そんなことを言った記憶は……」

さわ子「張り切って昔の段ボールとか漁って探してきたんだから!」(ドサッ)

梓「うわ。メタルのCDが一杯ですね……」

澪「ん? こ、このCDは……」

律「あれ? これ、どっかでみたことある気が……」

唯「えーと……ま、ま……MAYHEMにEMPERORに……BURZUM?」

全員「………えぇっ!?」

(本当に終わり)
関連記事
スポンサーサイト
[ 2012/07/02 20:26 ] SS けいおん | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://touhyo.blog55.fc2.com/tb.php/396-8dfd96d1







上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。